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May 2012

手塚治虫の短編が好き

現在、講談社から定期的に刊行されている手塚治虫文庫全集。元は昭和50年頃以降にB5サイズで刊行されていたもので、今回は文庫サイズでのリイシューになる。手頃なのでたまに買って読むが、欠かさず買ってしまうが短編集。これがまた何バージョン目かの買い替えだったりする作品ばかりで、指向性というもんはほんと変わらんなあ。私は幼小の頃から手塚治虫の短編が大好きだった。

■ザ・クレーター
ザ・クレーター (手塚治虫文庫全集 BT 45)

少年チャンピオンと少年ジャンプはほとんど同時期の誕生で(正確にはジャンプが1年早い)、私的にこの時期は週刊少年マンガ雑誌が3誌から5誌の時代に移行したと同時に、付録付き月刊誌時代の終焉でもあるという点でターニングポイントだったと思っている。

同作はチャンピオンに創刊期から連載されていたSF系短編の連作。テーマや設定に一貫性はなく、主人公がオクチン(奥野隆一)という少年(場合によっては青年)である点だけが共通しているが、そうじゃない場合もある。発表当初は恐怖マンガとして括られていて、確かに恐怖心をあおる展開が多いのだがその内容の幅広さは到底その一言では表現しきれないと思う。因果応報話や絶望的な結末が多い中、時折明るくほほえましいエピソードも散見される。子供の頃は、そんなオチャメな手塚世界がとても好きだった。今回の文庫化で未収録だったエピソードも収録されて初の完全版となっている。

「オクチンの奇怪な体験」
手塚治虫の描く幽霊はどれもとってもキュート。謎の女子幽霊に憑依されたオクチンのお話で映画「転校生」のような男女入れ替わり物の系列でもある。オチは最初から読めているがそれでもこうなければ、と納得のいくラスト。「やけっぱちのマリア」の原型かもしれない。
「大あたりの季節」
こちらもまた、オクチンの恋愛話を軸に展開する時間をテーマにしたストーリー。過去にさかのぼって歴史を改変できた場合、改変された世界にいる人たちの主観で世界は一体どう見えているのか、そうした観点で書かれたと思われるお話。でも、むずかしい事はひとつもなく実に愛らしい話で、小学生だった私はどこかにほんとにこんな○○が無いものか、と夢想したものだった。

他に、どこか間の抜けた侵略者が独自に得たいびつな地球の情報に惑わされ秀逸なオチへとつながる「紫のベムたち」「三人の侵略者」なども、愛すべき短編である。一気読みしてダレる事のない、非常に優れた短編集であると思う。

■ライオンブックス

ライオンブックス(1) (手塚治虫文庫全集 BT 28)ライオンブックス(2) (手塚治虫文庫全集 BT 29)ライオンブックス(3) (手塚治虫文庫全集 BT 30)

こちらはジャンプの創刊期に不定期に連載されていた短編の連作。チャンピオンとジャンプは共に創刊期に、真っ先に手塚氏の短編を掲載していたという事実が大変おもしろい。「ザ・クレーター」が毎週読み切りだったのに対し、こちらは長短様々で作品によっては短期連載の形式をとっていたものもあった。それ故かご本人いわく作品の出来にバラツキがあるらしい。またSFテーマだけでなく、動物ものや人情噺などが含まれているのも特徴。

「百物語」
短編のみならず、手塚氏の全著作の中でも5本の指に入るくらい好きな長編。とにもかくにも話がキュート。当時も人気があったらしく、いち早くジャンプコミックスの枠で単独でコミックス化されている。
うだつの上がらない侍が、切腹の直前に人生のリセットのために3つの願いを叶える代わりにタマシイを奪う契約を悪魔と交わすというお話。ある意味「どろろ」のテーマの変形でもあるし、氏が初期から取り組んでいた手塚版「ファウスト」のバリエーションでもある。(実際、朝日新聞社から文庫化された「ファウスト」に同時収録されていた)。
で、この悪魔がスダマというセクシーな美女というのが手塚氏らしいところなら、スダマが侍に恋してしまうと言う展開も手塚氏らしいところ。名誉出世のはかなさだとか、本当の愛とはとかいろんなテーマが入っているものの、それよりもただひたすら人間に恋した悪魔を描きたかったのだと思う。言うまでもなくスダマが超キュート。

他に『ポルターガイスト』という専門用語を我々に知らしめた「あかずの教室」、重苦しい展開でありながら希望の持てるラスト「荒野の七ひき」など、傑作佳作多し。反面「マンションOVA」など尻切れトンボ感がぬぐえないものもあり、氏自身の感慨どおり。

■タイガーブックス

タイガーブックス(1) (手塚治虫文庫全集 BT 115)タイガーブックス(2) (手塚治虫文庫全集 BT 116)タイガーブックス(3) (手塚治虫文庫全集 BT 117)タイガーブックス(4) (手塚治虫文庫全集)

ライオンブックスと対を成す短編集という意味でこの名がついているが、実は「タイガーブックス」という連載があった訳ではなく、単行本にまとめる際に便宜的につけられたタイトルらしい。なので、年代から掲載誌までバラバラ。どういう訳か動物ものの短編が多く収録されている。

「ガラスの脳」
何度も書いてるが、私の少年期は手塚氏の描く女の子のキャラクターにときめきを感じる傾向にあった。幼少期は「ジャングル大帝」も好きだったけど、「リボンの騎士」にはやはり何とも言えない甘酸っぱいものを感じていた。だから、自分が性というものを意識したきっかけも実は手塚マンガだった。いわゆる「ヰタ・セクスアリス」である。そのきっかけとなった作品のひとつがこれ。
映画化もされているので有名な作品だと思うのだが、当時掲載誌(たしか少年サンデー)を塾で読んでどうしようもなくむずかゆい思いを覚えたものだった。その理由がわからなくて、何度も何度も読んだ記憶がある。この時期手塚氏は児童への性教育に積極的で、「やけっぱちのマリア」「アポロの詩」などを通じて少年誌上でアカデミックな性の秘密を堂々と説いていた(赤ちゃんはどうやって生まれるか、とか)。実は「ふしぎなメルモ」も元は性の啓蒙がテーマだった。そんな作品を読んじゃあ何とも言えないむずかゆい思いに捕らわれていた思春期の入口だった。

「るんは風の中」
ポスターの中の女の子と恋するお話。こう書くと今だと二次元コンプレックス話にしかならないけど、ちゃんとファンタジーとして成立している点が素晴らしい。しかも二次元キャラであるるんはちゃんとしゃべる。身も蓋もない言い方すれば妄想話以外の何物でもないが、読後は非常にさわやか。そして当時の私にとっては恋愛はファンタジーと同次元の話だった。

他にもキュートなお岩さんが登場する「四谷快談」、スーパーヒーローマンガ「ハヌマンの冒険」など。ハヌマーンと言えばウルトラ兄弟と共演したタイの宗教系ヒーローがいるが、それとは無関係に書かれたであろうこちらのハヌマンもヒーロー然として描かれている点が興味深い。数々の特撮関連マンガも描いている氏らしい一編。また、大半を占める動物ものはどれも傑作。

■アバンチュール21
アバンチュール21 (手塚治虫文庫全集)
これは正確には短編集ではなく、学研の学習雑誌に連載されていた同名長編にいくつかの短編を合わせて1冊にしたもの。どうしても書きたい1編がここに含まれているため取り上げた。

「7日の恐怖」
ある日自分の部屋以外の世界が消えうせてしまう。自分の部屋から外は完全な『無』。神が今の人類の歴史に絶望しリセットをかけた。だが、手違いで一人だけ消去から漏れてしまった少年がいたというお話。
これを読んだ時、恐怖のドン底に突き落とされた。トラウママンガという事であれば、まず第一にこれを上げる。手塚氏のマンガは時折、とてつもなく深いテーマに足を踏み入れる場合がある。その際たる例が「火の鳥」で、友達の家にあったCOMコミックスを読んでしまって途方に暮れて帰宅した事が何度もあった。これを読んだ後1年くらい、私は自分の部屋を閉め切って寝る事ができなくなった。ちなみにオチは本当に心の底から安堵できるものであった。
今から思えばこの時感じた恐怖は、自分が立脚しているこの世界がもしかするとものすごい脆弱なものなのかもしれない、そして、それはある日本当に消えうせてしまうかもしれないという不安感だったのだろう。もしかすると後にP・K・ディックにはまり込む素地は、この時養われたのかもしれない。
手塚氏は性や恋愛だけでなく、こうした哲学的な領域までも目を開かせてくれていったのだと思う。

■メタモルフォーゼ
メタモルフォーゼ (手塚治虫文庫全集 BT 140)
少年マガジン誌上で変身をテーマとした短編の連作として連載された。それに変身をテーマとした短編を加えて1冊としたもの。カフカの「変身」から連想された「ザムザ復活」など、間違いなく氏得意のテーマ。

「おけさのひょう六」
手塚氏と少年マガジンの「W3」を巡る断絶は、歴史上の事実として有名な話。この短編はその雪解けの証として久しぶりにマガジン誌上に掲載されたものである。その号(1974年4月21日号)には同時に巻頭グラビアとして手塚氏のマンガ作品を何十ページにも渡って集大成する特集が掲載されていた。この後、マガジンはちばてつやや川崎のぼるなどの巨匠の集大成特集を定期的に掲載するが、その嚆矢となったのがこの特集であった。またこの頃はオイルショックの影響下にあり、軒並み週刊マンガ誌はそれまでの半分以下の厚さとなっていた時代(しかも定価は100円から若干値上がり)。記憶によればこの号から定価が150円となり、厚さが通常に戻った。そんなこんなで目が覚めるような1冊だった事を未だに思い出す。

ところで「メタモルフォーゼ」は雪解け後の70年代後半のマガジン誌上での連載。この後一大傑作「三つ目がとおる」が生まれ、手塚氏の何度目かの黄金期となるわけだが、私はラブコメ路線と長編化した「野球狂の詩」などに魅力を感じず、幼少期からその精神性をはぐくんでくれた少年マガジンからついに離れる事となる。時に昭和50年、私は中学を卒業する年齢になっていた。

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